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   気象防災アドバイザー(国土交通省委嘱)・気象予報士・防災士 平井信行 

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■キンモクセイの香りで蘇る記憶

              

 私が19歳まで住んでいた熊本県八代市の実家の庭には、大人の背丈を超える高さのキンモクセイが植えてありました。秋になるとキンモクセイの香りが部屋の中に入ってきて、幸せな気分に浸っていました。夏が長い九州にも秋が来たことを実感していました。

 キンモクセイは、気温との関係が深いと言われています。残暑が厳しいと開花が遅く、秋の訪れが早いと開花も早くなる傾向にあります。今年の夏は、残暑も厳しかったのでキンモクセイの開花が例年より遅くなりました。現在、私の住んでいる埼玉県春日部市付近では、今年は10月半ばごろにキンモクセイの香りが漂い始めました。例年だと9月の終わりには開花していましたので、およそ半月も遅かったことになります。

 ところで、香りというのは人の記憶を蘇らせる効果があると聞いたことがあります。私もキンモクセイの香りを嗅ぐ度に熊本県八代市の実家で過ごした19歳の時のことを思い出します。高校を卒業して、現役で国立大学理学部に合格しましたが、入学を辞退して自宅浪人をしていたのが19歳でした。自分の進路について真剣に考え、これまでの人生の中で最も自由に生活した一年間でした。予備校に行かず自宅で気の向くままに勉強をしていました。予備校に行かない代わりに、模擬試験を自分で選んで応募し、学力を確かめることを繰り返していました。そのころから、マイペースで自分のやり方で行うことが、自分に一番合っているのだと感じていました。

 浪人することを決意した理由は、将来の進路に迷いが生じたためです。小学校6年生時点で気象の世界に入りたいと思っていた私ですが、どうも明るい未来を確信できなかったのです。気象予報士制度も無い時代に、どうやったら気象の世界で仕事ができるのか、本当に自分がやってゆけるのか、不安になりました。夕方になると、予備校から帰ってくる友人と進路について議論しました。大学は将来の進路に進むためのハードルで、専門的な知識を学ぶところだ、という結論に達しました。進路を最終決断する時期にはキンモクセイが開花していました。結局、私は好きな天気を学ぶことができて、教師の資格も取れる大学を選んで進学しました。

 改めてあの一年間、自宅浪人をし、この道を選んで良かったと思っています。そして、今年も私の人生において転機となった一年でした。5月には会社を役職定年となり、フリーランスとして気象予報士の活動をしています。やっぱり、私にとっては一匹狼で自由に生きるのが向いているな、と思います。


 2024年10月29

気象防災アドバイザー(国土交通省委嘱)・気象予報士・防災士

平井信行