気象防災アドバイザーの役割
これから大雨の季節になります。自治体や気象台からの防災情報・気象情報・避難情報がテレビやラジオ、インターネット、携帯電話、防災無線などから発表される回数が増えます。このような場面で、活躍が期待されるのが「気象防災アドバイザー」です。
◆どうして、避難情報がオオカミ少年的になるのか
避難情報などの発表回数が多いとオオカミ少年的な状況になり、次第に住民の皆さんの正常性のバイアス、つまり、自分は大丈夫だろうという意識が強まってきます。そして、本当に危険な状況になった時に、逃げ遅れて被災するケースがあります。
このように、情報がオオカミ少年的になるのは、本当に危険な地域に対して、ダイレクトに避難情報が発表されていないことも原因にあります。町や村、市の「全域」に避難指示と言って、全員が危険な場所から避難の目安になる情報が発表されている現実があるからです。毎回毎回、「市町村の全員」が避難していると、またか、前回大丈夫だったから、今回も大丈夫だよといった心理に住民が陥ります。
◆対象地域を絞った避難情報を
このためには、情報の発表回数を減らし、地域を絞った発表の必要性があります。このような情報の発表の仕方を「自治体トップの首長に進言する」のが気象防災アドバイザーです。この委嘱を得るためには、民間では気象予報士の資格を持ち、気象庁の研修を受けて一定の技術を学ぶ必要があります。私も本年4月1日に国土交通省から委嘱を受けました。
気象防災アドバイザーの仕事は、日常的には自治体の講演会や地域防災計画の作成の助言、コミュニティーラジオやケーブルテレビの気象情報に出演するなど地域に密着した活動をしながら、大雨や台風などの非常時には自治体の危機管理部門でのアドバイスをします。そのためには、気象・防災情報に詳しいことと、自治体の川や海、山の危険な地域を把握しておく必要があります。
たとえば、大雨の際、○○川の△△地区が川の氾濫による浸水被害を受けるおそれがある場合は、そこを対象に避難指示を発表します。しかも、△△地区の中でも、浸水の深さが2メートル程度であれば、2階建て以上の鉄筋コンクリートのマンションなどの頑丈な建物の人は自宅に留まることも避難の方法の一つです。このようなことを日ごろからの防災教育でハザードマップを使った実践訓練をするのも気象防災アドバイザーの役割です。○○川流域の全員に避難情報を出していては、避難する人数と共に開設する避難所の数も多くなり、避難に関わる自治体の予算も増えてしまいます。
◆全国の自治体に気象防災アドバイザーを
気象防災アドバイザーは、令和5年4月の時点で191名に委嘱され、令和4年度の実績では36自治体で活動しています。この制度は平成29年に始まったばかりですが、全国の自治体で常駐するようになれば、災害に強い日本になるでしょう。ただし、ネックなのが予算です。自治体には予算がなく、なかなか防災のためだけに専門家を常駐させるのは厳しい状況です。ここは国が積極的に予算を使って、気象防災アドバイザーの自治体設置を法制化する方向に動いてほしいと願います。
気象防災アドバイザー・気象予報士・防災士
平井信行
2023年5月2日