富士山は教科書~天気やルールを学ぶ

2023年9月3日

 2023年のシーズン、私は富士山に6回登りました。富士山の麓から山頂まで走るレース「富士登山競走」の練習とレース本番のためです。これまでの25年間の競技生活の中で、一番、富士山に通った夏でした。まだ山頂に雪が残る5月に一回、6月に二回、7月三回、富士山に行きました。富士山に行くと様々な自然現象が見られ、いつもの夏にも増して、とっても楽しめました。

 今シーズン最初の登山。5月の富士山は山頂から五合目まで積雪があり、まさに絵に描いたような富士山らしい光景でした。麓も涼しく、三合目まで走って行ったら寒かったので、すぐに折り返して下山しました。下山途中の標高1000メートル付近には、オレンジ色をしたツツジの花の群生が見られました。5月に富士登山競走のコースに訪れたのは初めてだったので、新しい発見でした。この春は暖かく、ツツジ前線はかなり早く北上したので、2度もツツジを見られ、得した気分になりました。

 2度目の6月の富士山は、すでに山頂付近の雪は解けて、夏の富士山に様変わりをしていました。春の気温が高かったので、富士山山頂の雪解けも早かったです。遅い年には、7月になっても山頂付近に分厚く積雪していることもありますから、春の気温が富士山の雪解けに大きく影響します。この時は、五合目まで行きました。晴れていたこともあり、暖かく感じました。半そでで走ってちょうど良いぐらいでした。

 一方、同じ6月に3度目の登山をした時は、五合目が曇りでうすら寒く感じました。日ざしがあるか、無いかによって体感温度が大きく異なりました。これが登山の難しさで、夏でも低体温症になることもあります。

 7月になって山開きがあり、山頂まで行けるようになりました。しかし、7月の最初の登山は、五合目まで登ったら、風にあおられるぐらいの暴風でした。「つるし雲」といって、円盤状の雲が富士山の近くに現れていました。この雲が出ると、富士山は悪天となります。多くの登山者が暴風で危険だということで、山頂まで行かずに引き返していました。私も天気図や気象データを見て、活発な梅雨前線が日本海沿岸にあり、日本海側に大雨を降らせていたので、これは暴風が収まらないと判断して五合目から引き返しました。山では、引き返す勇気が大切です。

 7月の2度目のアタックは、ようやく山頂まで行くことが出来ました。太平洋高気圧が強まり、梅雨の晴れ間となったタイミングでした。麓は猛暑でしたが、山頂は風も弱く、晴れて暖かく感じました。この時の山頂の空は青く澄み切っていました。高気圧の勢力が強いため、下降気流で上空が乾いていたためです。

 この時、ペットボトルを山頂まで持って行き、実験をしました。山頂で水を飲みほして蓋をし、麓まで持ち帰りました。家に着いた時はペットボトルがぺちゃんこになっていました。これは、山頂の空気よりも地上の空気が重たいので起こります。この空気の重さを「気圧」といいます。気圧の変化を目に見える形で体験しました。

気象防災アドバイザー・気象予報士・防災士 平井信行

令和5年8月3日